鈴鹿の地に伝わる伝統工芸
伊勢型紙
鈴鹿市の白子に千年以上の歴史を誇る伝統工芸があります。伊勢型紙、という着物や浴衣の染色に使う型紙です。柿渋を用いて和紙を貼り合わせた紙に、細かい刃先の彫刻刀で模様をていねいに彫り抜いていきます。機械でも再現できないような細かな模様を手彫りするため、非常に高度な技術と熟練の技が必要です。その価値を認められ、1983年に伝統工芸品(用具)の指定を受けました。数ある伝統工芸品の中で、”用具(何かに使われる道具)”として唯一、指定を受けています。
歴史の中で磨かれてきた
職人の感覚と技術
型紙のことを語る際に外せないのが、染色の存在です。模様の原型となる型紙と、その型紙を用いて着物を染め上げる染色は、2つ揃うことで着物に美しい模様をつけていきます。歴史の中では、「型紙職人と染色職人の意地の張り合いで、模様がどんどん細かくなっていった」とも言われています。「お前の腕ではこんなん染まらんやろ」「お前こそもっと細かく彫られへんのか」といった応酬が双方の技術を研鑽させていきました。
切っても切れない関係にある型紙と染色。型紙の良し悪しが本当に分かるのも染色の段階です。見た目には完璧な型紙でも、染めるとムラが出ることがあります。ムラが出ると、その型紙は失敗。どれだけ時間をかけて彫ったものでも、一から彫りなおしになります。今回お話を伺った、伊勢型紙の伝統工芸士の小林満さんは、四十日かかったものを彫りなおした経験があるのだとか。それほど、伊勢型紙を彫る職人の世界は胆力と高い技術が求められます。
模様の中でもムラになりやすく難しいのは、シンプルな形が並んだもの。”シバ”という等間隔に線が並んだ模様は特に難しく、彫ることができる職人はほんのひと握りです。この模様を彫るときの小林さんは、8時間ほど一度も席を立ちません。食事はもちろん、お手洗いにも行かないそうです。立ったり座ったりすると目の感覚が若干ずれ、それがムラになってしまう。蛍光灯の音が聞こえるほどの静寂の中、ただひたすら刃先に集中し、感覚を頼りに等間隔で彫りすすめていきます。
温故知新
伊勢型紙のこれから
熟練の技術を千年以上繋いできた伊勢型紙。しかし、洋服の台頭により職人の数は減少の一途をたどっています。しかし、この技術を絶やしてはいけない、と小林さんが中心となり様々な取り組みが行われています、元々が道具として使用される伊勢型紙は、他の業界とのコラボレーションも比較的しやすいのです。その特色をいかし、ランプやスニーカーなどの魅力的な商品が生み出されています。
ただし、伊勢型紙の圧倒的な技術力は”着物を染める小紋型”という基礎があってこそ。この土台を大切にしつつ、携わっている人が楽しく希望がある状況をつくっていくこと。そんな想いを胸に、小林さんは伊勢型紙の未来のために活動を続けています。
公式HP:http://densansuzukacity.com